「週刊金曜日」12/23 877号の特集は、編集委員による『3.11後』考 「忘却に抗う」でした。その特集の中で、編集委員のお一人の中島岳志氏は、「橋下主義=ハシズムを支えるもの」というタイトルの記事で、次のように語られていました。
「橋下徹氏が率いる『大阪維新の会』が、大阪W選挙で勝利をおさめた。私は、橋下氏が提示する政策や政治手法に問題があるとあると思っている。大阪維新の会が訴える『大阪都構想』にも『教育基本条例』にも反対だ。しかし、私が真に追及したい問題は、橋下氏個人に還元されない。橋下氏や大阪維新の会そのものよりも、彼らの存在を待望する社会のあり方にこそメスを入れるべきだと思っている。」
「大阪W選挙での大阪維新の会の勝利は、二つの社会的心性に依拠している。その二つとは何か。一つ目は『リア充批判』(リアルな生活が充実している者への、現実の生活に不満を持つ人間による、ネット上の掲示板などによる批判)。自分たちより恵まれた立場の人たちを引きずり下ろすことに溜飲を下げ、その実現に執着心を強めるあり方はまさに橋下氏が提示する政策と合致する。橋下氏の『大阪都構想』は、大阪市役所の職員をターゲットにする『引き下げデモクラシー』である。『大阪市職員は恵まれている』『楽をしている』という一方的な印象操作を行い、彼らに既得権益というレッテルを貼り付ける。そして、彼らを引きずり下ろす姿を可視化し、大衆の欲望を満たす。『教育基本条例』の骨子も、公立学校で働く教員の免職に焦点が当てられている。もちろん不適切な教員は、存在するであろう。あまりにも問題がある教員には、教員現場から離れてもらう必要があると私も思う。しかし、問題の本質は身近かなところにいる『安定した職業の人間』『法的に身分が守られている人間』への『嫉妬』や『やっかみ』にある。自己の抱えるイライラを『ちょっと得をしている』と思える人間に対する攻撃へと転化するあり方は、橋下主義=ハシズムを加速させる。」
「二つ目は、『リセット願望』。リーマン・ショック以来、経済は回復せず、社会は不安定化するばかりである。民主党の政権交代に期待したものの、大きな成果を上げることができなかった。もし、景気が回復しても、その利益が労働者の側に還元されないことをわれわれは知っている。...その実態は、企業の内部留保が増大するばかりで、不安定な労働者層は増大していった。...とにかく、現在の状況を一気に打破してほしい。固定化した構造を流動化してほしい。そんな『リセット願望』が共有され始める。橋下氏の『大阪市役所をぶっ壊す』というスローガンは、そんな『リセット願望』と呼応した。そしてこの願望は『リア充批判』と一体化し、協力なハシズム推進力となる。」
「内田樹氏は、『週刊金曜日』12月9日号で『嗜虐的な愉楽』という語を用いて、橋下氏の支持者を批判している。自分に何らかの利益が約束されている訳ではないものの、市職員や教員が権利を失って弱者化し、右往左往する様を見て『ざまあみろ』とほくそ笑む悦楽が共有されているのではないかと指摘しているのだ。このような『リア充批判』と『リセット願望』は、何も2011年に始まった現象ではない。新自由主義体制の中で苦しんできた弱者に通底する感情が、この両者であると思う。」
「私たちはこの『愉楽』を乗り越えて行かなければならない。『引きずり下ろし』の先に希望は存在しない。不幸のスパイラルが肥大化し、社会が荒廃するだけだ。そんな状況こそがハシズムを一層、魅力的なものへと昇華させてしまう。...2012年以降、橋下人気は国政を動かすに至るだろう。その時、私たちは自己と対峙することができるのか、問われているのは、自己を突き刺す勇気の有無である。」